中澤まさとも『人生のパクが早上がりでもさ!』11
公表はしていないのですが、とある縁がありライブで生ナレーションを勤めることになりました。
とある歌手の人生を紹介しながら歌い手さん達の歌に細やかながら彩りを添えるわけです。
大変プライベートな件なので、皆さんにご紹介できないことはご容赦いただけたらと思います。それではなぜ今回このお話をするかと言うと…、まあまあ色々と思うことがあって回顧録という形で述べていきますので、そこら辺でお付き合いいただけたらと思います。
このライブとの、と言うよりライブ会場とのと言えば良いでしょうか? そこはそもそもライブ用の小スペースを設けているバーで、定期的にライブであったり演奏会であったり朗読劇であったり…そういったものを催していてご飯を食べながら楽しむことができるところでした。
そことの縁は16年ほど前に遡ります。
僕は声優という職業を意識し始めていて、自分もなりたいなあと憧れを抱いていたときでした。
当時、その会場でのライブに、とある声優がナレーションと歌の中での台詞パートで出演されました。
お察しがついていると有り難いのですが、有名な方でした。今でも自分の仕事の根幹に根付いている方です。
…今回、明言していないことが多くてふわっとしてるな…。
何故かと言われると、巧く言えませんが、ひとまずこのまま進めていきます…。
とにかく、その方…あー、よく分からなくなりそうなのでSさんとします。
そのSさんが出演するということで友人だった母に「観に行く?」と問われたのです。
(観に行きたい!)
当然そう思いました。
ファンでしたし、尊敬していましたし。
でも、なんでしょうね、青春独特の照れと今では思いますけど、
「これから声優を目指すのだから、ミーハーな気持ちで会っては行けない!」
とか考えてしまって、会わなかったんですよね。
自信がなかったんですよね。ただ夢見ているだけでしかなかった自分に。
そんなの当たり前なのに。
そんなわけでSさんに会わずじまいで数カ月したら、
ある夜、Sさんの奥様から、母宛てに電話がありました。
それはSさんが、ずっと遠くへ旅立ったことを告げました。
その言葉はやけに輪郭を持っていたように感じます。一瞬思考が空白になって、それが“本当だ”と認識した時、ひゅっ、と胸の少し下に冷たい空気が落ちました。そこから熱い膜が広がって心臓を包みます。じわじわと肺の中まで広がっていくようで息がしづらかった。
もう一度確認したいもう二度は聞きたくない。
ない交ぜの気持ちがむしろ僕に言葉をなくさせました。
ただそれでも、この事実だけは変わりません。
Sさんとは二度と会えなくなりました。
自分の道を行けばいつか胸を張って会えると思っていた。共演できると思っていた。お酒に付き合わされるようになると思っていた。
それがもう二度とないのだ。
こんなことなら、会えば良かった。
人生で、初めて、取り返しのつかない後悔をした気がします。
会えば何かが変わった訳ではないけれど、何かを得られたかもしれない。埒の明かないことですけど。何が正解かなんて今でも判りませんけど。
…あの時の年齢と同じくらい歩いていって(彷徨ったりもして)、今ようやく、あの時よりは自分に自信が持てるようになりました。不思議な縁が、僕が観られなかった景色に僕自身を辿り着かせたと思います。
Sさんが僕の観られなかった景色に居たのは、46歳。
そこまで、同じくらいの時間をまたこれから歩く。
どこまでいけるだろう。
とにかく進もうと思う。
仕事をしていこう。物語の何かを伝えよう。助ける人間になろう。助けてもらえる余白を作ろう。そうすれば、また自分の思い出と邂逅する瞬間が来るだろうと信じながら。